鮮魚店 丸川水産

川村巳子男さん、渡部正和さん

目次

「深ぼりインタビュー」第5回目は、「鮮魚店 丸川水産」の川村巳子男(かわむらみねお)さん、渡部正和(わたべまさかず)さんにお話を伺ってきました。

※本文の築地市場内の写真提供:渡部正和さん(許可を頂いて撮影しています)

インタビュー vol.5 丸川水産 川村巳子男さん 渡部正和さん

お店:鮮魚店 丸川水産
業種:鮮魚加工販売
話を伺ったひと 初代 川村巳子男(かわむらみねお)さん、2代目 渡部正和(わたべまさかず)さん

丸川水産とは

練馬駅北口すぐ、弁天通りと練馬銀座本通りの交差点に面した場所にある鮮魚店。毎日築地から仕入れた旬の鮮魚や加工品の販売。仕入れにもよりますが、鮪(マグロ)、活け締め平目(ヒラメ)、自家製ゆでだこ、赤貝、帆立貝、縞鯵(シマアジ)、カンパチ、烏賊(イカ)、栄螺(サザエ)など、刺身は約20種類ほど。

店頭で焼いたカマ焼きほかさまざまな焼き魚や、ホタテやサザエなど海鮮串焼き各種、切り身の塩焼きや、ブリ大根やイカの塩辛を始め、味にこだわったオリジナルのタレを使った照り焼き、味噌漬けなどの自家製製品も人気。

またお祝い事の鯛の姿焼きはサイズなど注文に応じて承り、釣った魚の持ち込み、商品の配送にも可能な限り対応。また保育園への納品や、飲食店、専門店への卸も行うプロ御用達のお店でもある。

仕入れや特売情報など、Twitterで発信中。

鮮魚店 丸川水産 : 練馬区練馬1-20-4

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朝5時、練馬から築地へ、鮮魚店のお仕事
魚屋・丸川水産さん直伝の知恵

お魚屋さんって、どんなことをされているんでしょうか。また、興味があるのがやはり丸川水産さんが直接見た市場の様子ではないでしょうか。お話を伺ってみました。

こうやって届く新鮮でおいしいお魚

朝5時頃始まる丸川水産さんの1日

まだ観光客が入れない、早朝の築地市場内。その日入ってきた大量のお魚の中から、手早く魚を見定めて仕入れてゆきます。

(インタビュアー : お魚屋さんって朝が早そうですよね。)

朝はだいたい5時ぐらいですかね、車で家を出ます。築地に着くのが大体6時頃。あんまり早く行っても、まだ魚が揃っていないんですよ。早いところは、うちが着くころにもう帰る人もいますけど。

(インタビュアー : お魚屋さんのお仕事って、そうやって仕入れに行って、その後どんな作業をされているんですか?)

仕入れして店に帰って、それが9時位。荷を降ろしてすぐに仕込みです。刺身にしたり、大きいのは切り身にしたり、焼き魚とか、タレを作ったりね。いろんな準備ですね。できたら陳列していって。

夕方は、6時ぐらいから商品の整理をして、店を閉めるのが9時位。

仕事帰りにいつも寄ってくださるお客さんも多いんで、ちょっと遅めの時間まで開けておくようにしてるんですよ。

(インタビュアー : やっぱりお魚を市場で見ている時点で、これは切り身にしようとか考えながら仕入れをされるんですか?)

そうね、販売方法を考えて、これは加工したほうがいいなとか、これは丸のままがいいとか。そのまま売って、売れなきゃ後は焼いて売るとかね。

プロから見た市場の様子

今ね、市場は外国人が多いよ。観光でね。身体が大きくて、通路が埋まっちゃう。

朝から寿司屋並んでますからね。朝からそんなに寿司食いたいかなって思うけど、もし自分が函館とか行ったら、朝から並んでると思いますけどね(笑)

(インタビュアー : 外国人観光客は、アジア系の方が多いんですか?)

そうですね、多いけど、でもさまざまですね、フランス語、ロシア語、南米っぽい感じや、中東系とか。10時前は中に入れないんだけど、入ろうとして警備員に怒られてますよ。

新鮮なお魚の目利きと保存のポイント

秋刀魚、鰹、貝類の目利き

サンマの目利きの仕方を、手を使って説明して下さる川村さん。お腹の底が平らになっているものがおいしいそうです。

(インタビュアー : そうやって仕入れてこられたお魚は、みんな新鮮だと思いますけど、より美味しいのを選ぶために、ぜひ目利きの仕方を教えていただけますか)

秋刀魚(サンマ)の場合はね、お腹の断面が丸くなってるでしょ。そのお腹の平ら気味なものが油がのってるの。断面がちょっと台形っぽくなっているような。

油がのっている魚はね、男性って言うより女性の肌に似ているんだよ、鰹(カツオ)は特にそう。鮮度のいいやつはしっかりしていて、さらに油がのってると、そうだね潤いがあるような感じ。

鯵(アジ)はだいたい、目が綺麗で形のいいやつだね。皮が艶やかで、ある程度ふっくらしてるというか。痩せてるやつはやっぱりダメだね。

やっぱり魚の本来の形ってあるでしょう。何となく頭が痩せてるとか尻尾がしっぽがぼろぼろしてるとか、不自然なものはダメ。浅利(アサリ)とか貝でも、そのものの形が整ったものがいいよね。

よくカレンダーに魚の絵が描いてあるんだよね、そうするとこのカツオ油ないなとか。うちの店にもね、焼き魚やっているわきのカツオの絵、あれはちょっと油がないんだよね(笑)

鰯の目利き

鰯(イワシ)はね、体がしっかりしてて、全体から比べて頭が小さく見えるのがいいんです。

背中側のラインがまっすぐなのは痩せてて油はのってないんですよ、背中のラインが曲線になっているのが油がのってます。

あと、皮の表面の色があざやかで、はっきり見えるやつですね。

左 : 比べてみると、上のイワシは体に比べてあたまが小さく見え、頭の後ろから背中にかけてのラインが曲線になっていて、目や模様が澄んではっきりしています。こういうのがより新鮮で油ののったおいしいイワシなのだそう。
右 : 魚を持って説明してくださる渡部さん。

保存は氷水で、空気に触れる部分から悪くなる

(インタビュアー : 大きめのお魚を丸ごと買った時とか、上手な保管の仕方ってありますか)

魚によってね。氷につけたり、冷凍しなきゃならないのもあるし。冷凍鮪(マグロ)なんか買ってきても、普通の家庭の冷凍庫では3~4日ぐらいだね。

本当にもたすなら、マイナス50~60度位だから。それぐらいないと、安心して長くもてない。油がやけたり、渋くなったり、風味が変わって、色も変わっちゃう。

サバとか、サンマとかアジとかは氷水で。水は海水の濃さの塩水にして。海水はけっこう塩分強いからね、けっこう塩入れますよ。それを入れ物ごと冷蔵庫に入れます。それでも2日位で味が落ちちゃいますね。

(インタビュアー : 魚って、外側からと中側からとどっちが早く悪くなるんですか?ジップロックに入れたりするほうがいいんでしょうか)

それは中のほうでしょうね。皮のほうは空気に触れていないから。空気に触れるところが、早く悪くなっちゃう。そうだね、そういう袋にいれられれば一番いいね。

プロに教わる下準備、さばき方のコツ

上手なウロコ取りのコツ

(インタビュアー : 鱗(ウロコ)を取るときに飛びますよね、飛びにくく上手にとるにはどうしたらいいんですか?)

水の中でとるとか。ボールじゃなくて、バットみたいな底の平らなのに水を入れて、水の中でやれば。

あとは熱湯かけるとか。鯛(たい)なんかは熱湯かけると、わーってこけら(ウロコ)が立ってくるよ。だけどその後の料理の仕方によって、みんな違うよね。

お刺身を生臭くしないコツ

例えば、アジなんかね、自分のうちで刺身にしようと思って、料理が好きな人は丸のまま買っていくでしょう。そのときに、皮に生臭さがあるから、なるべく皮に身のほうが触れないようにするんです。

魚って皮がぬるぬるするでしょう。あれがまな板にさわると、まな板がぬるぬるになるよね。それをなるべく拭きながらやる。ぬるぬるがついちゃうと、生臭くなっちゃうから。

たくさんあった場合は、皮の面と身の面があって、身と身を合わせて、その上は皮と皮を合わせるように重ねて置いておくの。家では重ねるほど沢山ないだろうけど(笑)

同じ向きで重ねちゃうと、身と皮が触れちゃうでしょ、それで生臭くなっちゃう。皮がはいじゃってあれば、もう関係ないです。

アサリの砂抜き

今はね、うちあたりは漁師がきちんと砂抜きして送ってよこすから、蜆(シジミ)でも何でも。

入れ物に水張って塩をぱらぱらって入れてアサリを入れる人がいるんだけど、塩水だから、塩を入れてダーっと泡が立つ位かき回してちゃんと塩を溶かさないと。

それで、上からフタしたりしたらダメ。密閉しちゃだめってことです。アサリも酸素を吸うからね。

あと温度。あんまり冷たくても。今(5月下旬)ぐらいの水道の水ぐらいの温度。あったかいとしんじゃうしね。

アサリの洗い方

潮干狩りとかいってアサリ採ってきたら、洗うときにだいたいみんな、上からアサリを掴むような形で洗うでしょ、こうやっちゃダメなんですよ。

水をたっぷり入れて、下からすくい上げる手の形で洗うんです。貝の中が空で砂だけのがあるから、すくいあげると水が泳いで中の砂がでてくるんです。

生きているのに砂が入っているのは大したことないんだけど、砂ばっかりのが良くない。味噌汁の中が砂だらけになっちゃうでしょ。

水を良く見て、汚れているかいないか、汚れなくなるまで洗えばいい。砂がでてきたら、どの貝かなって見ればね。

知ったらびっくり、お魚屋さんの舞台裏

お買い物の間に店頭を見ているだけでは、きっと気づけない、とっても興味深いお話がたくさん伺えました。そして、ちょうどインタビュー中にぐうぜん遭遇できた、本当の舞台裏のお話も聞けましたよ。さっそくご紹介しましょう。

お魚やさんならでは、市場での印象的なお話

市場でワイルドに食べるお刺身

築地市場内

昔、石神井に勤めていたときはね、運転手で市場行って、旦那が買出ししている間ヒマだからね。

昔は小さいアジは樽でくるんですよね。それを、頭と腹は先に取っておいて、しっぽのほうから、ゼイゴってあるでしょ、あれを持ってぎゅーっと引っ張っちゃうの。

そうするとベロベロって皮がむけるから、それを水で洗って食っちゃう。刺身(笑)うまいんだ、そうやって食べるのが。つまみ食いって言うかさ、何でもつまみ食いっておいしいでしょ。

(インタビュアー : 両側からゼイゴのところを持って?味付けなしで。ワイルドですね!)

市場の魚だから、鮮度が良かったんですね。古くなって腹がぶくぶくになったのじゃダメですね。

ちょっとだけ珍しいお魚

(インタビュアー : 何万回も行かれていると思うんですが、市場の思い出ってありますか。ちょっと珍しいこととか。)

まあ、そんなに珍しいとまでは思わないけど、マンダイっていうやつがあるんだよ。こんな丸い魚だよ。赤いんですよ。ひらったくてさ。

おろしてみると、中がマグロみたいな身をしているの。刺身にして売ったり、切り身にして売ったり、いろんなことして売ったことがあるよ。その頃市場ではあんまり見られなかった。

あとはマンボウ。けっこう大きいでしょ、腸がこれぐらいかな、直径4~5cmぐらいの太さで、長いでしょ。それをゆがいて、ほそーく切って。

それを酢味噌か何かで食べるの、酒のツマミに。サキサキするんだよ、歯ごたえがある。あんまり味はないんだけどね、味噌の作り具合、味付け具合によってね。ちょっと珍しいだけだよ。

食べられなかった天然記念物

(インタビュアー : あの時一度しか見たことがない、なんていう魚はいますか?)

カブトガニ。あれは今、天然記念物になってとっちゃいけないことになってるんだよね。前は採ってよかった。

活きたまま買ってきてね、1日活かしておいて茹でたんだよ。そしたら身がないの。全く食べる身がなかった。

大きさはこれぐらいじゃないの、30cmぐらいなもんだな。今うちの壁に掛かってるよ。(笑)

魚を新鮮に食べるための工夫と知恵

隠れた生簀(いけす)

渡部さんがフタをあけると、中に生きたお魚とエアーが入っていました。左がアイナメ、右がヒラメ。店内に積まれた白い箱の中に隠れていました。

うちにも活けものがあるんです、生きてる魚。ここに。

これが鮎魚女(アイナメ)。こっちが平目(ヒラメ)です。

(インタビュアー : すごい、こんなところに生簀(いけす)が隠れていたんですね)

小学校の子供とか、社会科見学で来たりした時に、出して見せたりしてますね。

このアイナメはそんなに大きくないですね。こうやって市場から車で持ってくるんで、うちは白身はすごく新鮮ですよ。

魚をおろすのは2分もあれば

(インタビュアー : おろすのに一番簡単な魚ってありますか)

鯖(サバ)みたいなのが一番いいんだろうなあ。一番簡単。サバとか、イナダとか、ああいうので練習すれば、だいたい上手になるね。

(インタビュアー : 魚の大きさによっても違うかもしれませんが、プロの方は一尾何分ぐらいでおろしちゃうんですか?)

何分もかかんないよ、2枚おろしか3枚おろしでもちがうけど、2分もあればおろしちゃうんじゃない。大きくてもそんなに変わらないよ。

ぱっと横にして腹をがーっと切って、エラ取って、ワタ取って、それで頭をポーンとおとして。横に切って、ひっくりかえして。

店頭で手際よくサーモンをさばいていく渡部さんの手元。大きな魚が、あっと言う間に見慣れた切り身になっていく様子には見入ってしまいます。

鮮魚店さんしか知らない!?舞台裏

白身魚

(インタビュアー : よくお弁当とかお惣菜とか「白身魚」って書かれているのは、何が使われてることが多いんですか?)

いろいろですね。安い魚で、基本冷凍のもので、例えばメルルーサですね。あれは南米かな。給食のとか弁当のとかみんなそうですよ。よくて鱈(タラ)ですね。

メルルーサはタラの仲間ですね。タラとか、だいたい名前が知れているような魚って高いんですよ。

あと、ナイルパーチとか。白スズキって言われるんです。あとはカラスガレイとかシルバーって言われる銀ヒラスとか使ってますね。

仕事帰りのお客さんのために、少しずつ片付けながらも、遅くまでお店を開けている丸川水産さん。インタビューの間も来店されたお客さんの接客をする渡部さん。

魚のアラのリサイクルと回収業者さん

インタビュー中、お店の前に停まったトラックは回収業者さん。魚をおろして出たワタを、荷台へあけます。中を見せて頂いたら、すでにワタが何百キロ分もありました。夜中じゅうかけて都内で回収するそうです。

あ、魚のワタの行方知ってます? 世の中には、誰も知らない苦労をして、大変な思いをして、こうやって夜に集めてくれる人がいるんですよ。

こういう汚いものじゃないですか、これが満載ですから。本当にありがたいことです。これ何にするかわかります? これ、工場にもっていくんすよね。

工場に持っていって、油と魚粉にわけて、魚粉は畑の肥料ですね。油は、他の会社だったり、せっけんとかに。魚のワタの油を使って、せっけんができるんです。

(インタビュアー : 魚のワタの油から? すごいリサイクルですね。)

今30件ぐらいだから、これからあと80件ぐらい周りますね。

朝方までね。ほんとありがたい話なんすよ。誰も知らないことですよね。永ちゃんが好きなんですよ。車もピッカピカでしょ?

汚いもの扱うから、きれいにしてるんですよ。

今まだいいけど夏なんか臭いがすごくて、くさいとか言われるそうで、心が折れるって。子供にくせえー、とか言われるとやっぱり嫌だってね。

魚屋はまだいいけど、スーパーとかで出し忘れててちょっと半分腐ったようなの出されることもあるから。ボコボコ言っちゃっているような。

体に臭いもついちゃいますし、朝と夜逆転だから。だから本当に大変ですよね、ありがたいことです。

すみずみまでキレイに磨きあげられたトラック。左後ろに、ロックミュージシャンの矢沢永吉さんの大きなステッカーが貼ってありました。

今の丸川水産さんができるまでのお話
プロ限定の築地市場を写真でツアー

今の丸川水産さんに至るまでの経緯を伺いました。後半は、観光客は入れない時間帯の築地市場内を写真でツアーしますよ。

魚屋さんを続けてきて

突然魚屋さんに

(インタビュアー : どんな経緯で魚屋さんを始められたんでしょうか?ご出身はこのあたりですか?)

出身は山形の山の中。近所にいた娘さんが石神井に嫁に来ていて、たまたま産後か何かで調子が悪くて田舎に帰ってきていて、良くなって東京に行くときに、若い人が欲しいって言うわけ。

私も、その頃あっちこっち職業探してたけど、どこも将来性がなさそうな気がしていて。東京の魚屋から声がかかって、全然商人なんて考えたことがなかったのに、本当に1日2日でがらっと生活が変わった。

石神井で16年勤めて、自分の力も試してみたくなって。お店を始めるつもりはなかったけど、妻も商いが好きなので、昭和45年の3月に練馬で川村鮮魚店として開業して。

昭和49年に有限会社丸川水産を設立して、昭和60年の4月、今度は今の場所に移転して。平成24年の4月からは私が退任して渡部が代表になりました。

「魚なんてそんなに見たことなかったからね。月に1回食べればいいほうだったぐらい。あとは親父が川から獲ってきた魚。」と笑いながら話して下さる川村さん。

最初はイワシもアジも区別がつかなかったよ

(インタビュアー : 突然魚屋さんになった時に、面白いとか大変だと思うことはありましたか?)

山奥で育って、そんなに話したことがないから、人の顔を見て話すことができなかった(笑)恥ずかしくて。それがなんでか、一番私の苦手な職業に着くことになって。

東京に来てね、いらっしゃいませってその言葉が出ないんですよ。それでもとにかく職業についたから、なんとか努力で今まできて。年を取ってきてから、だんだん話せるようになったね。

魚屋を面白いなんて思ったことはないよ。商売は嫌いだから(笑)大変とか苦労っていうのもなかったね。やる気でやってるから。やっぱり初めてやることは一生懸命やるからね、楽じゃないよ、何でも。

でも私は田舎育ちだから、いっくら働いても全然苦にならなかった。最初は鰯(いわし)も鯵(あじ)も区別がつかなかったよ。よくみれば、アジはゼイゴがあってって判るようになったね。

楽しいこと

(インタビュアー : 楽しいとか嬉しい時ってどんな時ですか)

とにかく作り上げるまで仕込みに時間がかかるんですよ。それで手をかけたら必ず売れるっていうわけでもないし。

お店に出して、今日は綺麗に売れたよって言うときは、ああ、良かったなって。やっぱり売ろうと思って売り出したものが売れた時が嬉しいっていうかね。

市場で仕入れてくるでしょう。今日は品物はこれだけ買えばいいよってところに「これもって行きなよ、安くまけてやっから」って押し売りされるわけよ。いらないよそんなの、って言うと「持ってけ」って。

しょうがないからお付き合いで持っていくかって、ここに持ってくるでしょ。そうすると売ろうと思ってたものが売れないで、そっちばっかり売れるときがあるんだよ。皮肉なもんなんだよ(笑)

忙しい朝の仕込みの時間。仕入れてきた素材を手に取る川村さん。活きたままの素材も多く、素材ごとに手早く丁寧に加工してゆきます。こだわった自家製のおいしさはファンが多いのも納得です。

この日は旬の牡蠣を手早くひらいていた渡部さん。店頭では、奥様の奈美子さんが、焼き物の準備をされていました。合間に取引先のお客さんが仕入れに来た時は渡部さんが対応しながら、全員で手際よく準備を進めます。

美味しさに隠れた創意工夫

捨てちゃうものの利用を考えるのが好き

巨大な切り身が沢山並ぶ、築地市場のショーケース。取引のある卸さんから仕入れるのでも、その日その日の状況によって、兼ね合いを考えなければいけないことは多いそう。そうやって仕入れた素材をいかに美味しく喜ばれる商品に仕立てるかに工夫を凝らします。

俺はね、他の人が食べられないようなもの、捨てちゃうっていうやつを何とかうまく利用しようかなっていうのを考えるのがいいんだね。

マグロってでかいよね。何十キロもあるようなやつ。それの皮が厚いんですよ。普通の魚の皮って言うとこのぐらいか。コピー紙ぐらい。まぐろの皮は、この厚手の封筒よりもっと厚いな。

皮があって皮の上にこけらがあって、こけらの上にまた薄皮がついているんだよね。マグロの皮はだいたいみんな90%捨てちゃうんだよね。それで皮で何か料理できないかと思って。

皮を湯がいて、マグロの刺身なんか切ると出てくる筋を、丸めて皮でくるんで串刺して、ねぎと交互に刺して焼き鳥みたいにして。けっこう面倒くさいの。売り上げは取っといて、みんな子供たちにやっちゃった。

健康の大切さ

スマートフォンで自治会用に川村さんが作った議長席の写真を見せて下さいました。会長席も作られたそうです。幅20cm×高さが27cm位のアラスカの檜から、彫刻刀やノミで彫りだすのだそう。下絵を描くのだけで1日、製作に1カ月近くかかったとのこと。

(インタビュアー : 川村さんは、唄、彫り物、マラソンと、沢山ご趣味があると伺いました)

唄は、42歳から37年間やってました、先生について。国技館で全国大会で唄って優秀賞っていうのをもらった。NHKも行って唄ったことがあるんだよ。合唱で。毎日声を出していないと、もう唄えないよ。

彫るのは始めて1年半ぐらいかな。家で、女房とうちの親の写真に女房がお茶をあげたりしていたからさ、小さな仏壇みたいなのを作って、そこに家紋をつけたの。それがきっかけ。

62歳の時に心臓で倒れちゃって。そこから5年間入退院手術を繰り返して。3ヵ月ぐらい店休んだ時に、その頃もずくの酢の物が売れていたんですよ。ところがその酢がなかなか作れなくなった。味覚が全く戻らないんです。

同じ頃にね、カラオケにも行ったことがあるんだけど、リズムまで掴めないんですよ。だから身体が調子悪いっていうことは、全てがダメなんだなと思って、ひとつの経験だったですよ。

1年経って旅行に行った時に、友達がちょっと散歩しようなんて言って、走り始めた。その時から走るようになった。練馬こぶしハーフマラソンは最高齢で出場したんですよ。練習は、市場に行かない時に朝走ってるね。

自分で加工した柳刃包丁

うちの孫が保育園に居た時に、同じクラスに22~23人ぐらいいて、太いマジックでキャラクターの絵を描いてプレゼントしたの。ホタテの殻の内側が描きにくいから描いたり消したりして。

私は何でも趣味につなげちゃうんですよ。仕事なくなって退屈でしょうがないよって皆言うけど、そんなこと全然ない。1日30時間ぐらい欲しいよ。

(インタビュアー : お器用なので包丁とかもご自分で何か加工の工夫とかされそうですね。ご自分専用のを作ってもらったりするんですか。)

いや、作ってもらうというのはしない。普通にあるものを買ってくる。前は刺身包丁はこんなの(刃渡り30cmぐらい)使ってたんだ。102寸ていうのがあるんだけど、昔の寸法で。

こんなに長いけど、あれを使って魚を沢山切って刃が減ってくるとね、カツオの皮のはぎ方の具合とかが変わってきちゃって、使いにくくなってくるんですよ。だから先を折っちゃって綺麗にして、柳刃みたいにして使ってるんです。

使い慣れた包丁で、仕入れてきたばかりの新鮮な魚を刺身におろしていく川村さんの手元。

プロが見たお魚屋さん業界

魚の旬、天然と養殖について

今は魚の季節感ていうのがないね、養殖したりするからね。そんなに高いエサは使えないから、養殖って言うのは味が決まっちゃうんですよね。

やっぱり天然で泳いでいる魚のほうが、本当の味がします。

鰤(ブリ)なんかも、養殖だと脂がのって煮焼きしてもやわらかくて味を知らない人は美味しいんだけど、魚の味を知っている人は脂がなくても天然のほうが本物の味がしていいって言うね。

例えばほうれん草のおひたしで、化学調味料をかけたのとかけないのみたいなかんじ。えさに応じてね。えさも研究しているらしいけどね。

冷凍もの、海外からの輸送

今は市場に入ってくる魚はほとんど外国のが多いからね。外国って言ったって、今は飛行機で来たりするから。鮮度はけっこういいです。

(インタビュアー : 冷凍してある魚って、やっぱり鮮度はみづらいんですか?)

ま、感覚で見れば判ります。アメリカの平目(ヒラメ)なんかも生で来るからね。1日できちゃうんだから。熟成まではいかないけど、温度を管理して。

昔はヒラメの輸送っていうのは、水槽みたいなのに入れて輸送するからなかなか大変だったんだよ。今は本当に水もあんまりなくて、薄いバットみたいなのに入った感じで輸送するんだよね。

こんなんで大丈夫かなって言うぐらいの感じで、われわれはちょっと信じられない。そうやってくるのが。

冷凍でもね、海からあげて、ぴしっとした保存のしかたをやったやつは、品物がいいんですよ。

プロ限定の築地市場、写真でバーチャルツアー

観光客や見学の皆さんが入れない時間帯の写真をお見せしますよ。

早朝の築地市場に到着。時間が勝負の中、皆せわしく行き来しています。足早に市場内へ。

今日はどんな素材があるか、目を光らせながら素早く売り場を見てゆきます。

おろした魚を売っているお店もあります。ここはカツオがメインで他にも生マグロなどが並んでいます。

鮴(メバル)、伊佐木(イサキ)、金目鯛(キンメダイ)、真子鰈(マコカレイ)など沢山並んでいます。

サイズごとに並べられた蛸(タコ)。

活物(いけもの・生きている魚)屋さん。他にもスズキ、タイなどしめたての魚も並んでいます。

魳(カマス)、鯛(タイ)、疣鯛(エボダイ)、ワラサなどが並んでいます。

海胆(ウニ)と帆立(ホタテ)。

皆さん真剣に見定めています。

貝類も豊富。海松貝(ミルガイ)、平貝(タイラガイ)、栄螺(サザエ)、白貝(シロガイ)、蛤(ハマグリ)など。

川魚もあります。鮎(アユ)、山女魚(ヤマメ)

左上から時計周りに、真鯛(マダイ)、鱧(ハモ)、しめたてのタイ、カレイ、ワラサ等の活物、鰌(ドジョウ)。

品揃えは、海の状況や空輸されてくる品物の内容によって日々全くちがいます。

出来上がったお惣菜を売っているお店もあります。

作業に必要なさまざまな道具を売っている道具屋さんもあります。

セリが終わった鮪(マグロ)のせり場。まるまるとした活きのいいマグロが並びます。

一匹ずつ箱に収めて運ばれてゆきます。

こちらは冷凍マグロ。

ターレーと呼ばれる運搬車で運ばれるマグロ。

仕入れが終わったら、手早く車に積み込みます。

使い終わった発泡スチロールの集積所。この時は少ないほうで、いつもはもっと大きく積みあがるのだそう。

すっかり明るくなりました。お店に戻って荷を降ろして、すぐに仕込みに入ります。

丸川水産だからできる
おいしい素材選びから、レシピアドバイスまで

素材の良さはもちろん、どうやったら料理としても美味しく食べてもらえるか、そこまで考え抜く姿勢は、川村さんも渡部さんも共通していらっしゃいました。最高の素材としてお魚を売るだけに留まらない、丸川水産さんの商品の、おいしさの理由がわかってきた気がします。

お客さんのために工夫していること

仕入れから帰ってきたばかりの丸川水産さんの中に積まれた、白い発泡スチロールに入った新鮮な素材の数々。まるで水のない水族館のよう。これにひとつひとつ手を入れて、商品にして並べられてゆきます。一部、取引先の飲食店などへも卸します。

ホテルコックから魚屋さんに

自分はコックやろうと思ってましたから、調理師学校を卒業してからホテルに就職して、洋食のコックやってました。

(インタビュアー:たぶん料理を作るのと全然違いますよね、素材として魚を扱うようになって何が面白いと思われましたか。)

面白いのはやっぱり仕入れですかね。自分で自由にできますからね。自分がこういう風に買って、こう売れたらいいなって。思ったように売れると、やっぱり嬉しいですね。

あとは料理をやってたから、ムニエルだとかピカタとか、もうちょっとしゃれた、アクアパッツァとか、ブイヤベースとか聞かれても、「この素材を使ってこういう風にしたらいいんじゃない?」って、ある程度お答えできます。

(インタビュアー:パエリアとか、鯛めしとか魚を使ったレシピは沢山ありますから、元ホテルコックの魚屋さんが素材選びから教えてもらえるなんて、お客さんも喜ばれますね。)

すぐ食べられる、そのまま食べられるもの

なかなか魚を丸のまま買われる方は少ないですね。まあ、切り身だったら、焼くだけだから、手軽でいいんでしょうね。うちみたいな魚屋は、ハラワタ取ってとか3枚おろしにしてとか気軽に頼んでうまく利用して欲しいですね。

今よく出るのは、「このまま食べられる」っていうものですね。簡単に食べられるもの。刺身なんかは新鮮で、出してそのまま食べられますからね。茹でてあるとか、焼いてあるとか。仕事帰りのお客さんも多いですから。

1人暮らしのお年寄りの方や主婦の方も、煙が気になるとか、うまく焼けないからなんて、焼き魚や煮魚の注文をされていきます。これからはサンマの塩焼きの注文が多いですね。

(インタビュアー:美味しくてお買い得なお魚が多いから喜ばれるんだと思いますが、やっぱり仕入れで違うんでしょうか)

仕入れは難しいですね。どれだけ安くていいもの見つけられるか。お客さんの嗜好も変わっていくし。

こだわった自家製手作りのタレ

料理の下処理の仕方は、全部自分で研究してます。でも、昔は売れたから。そんなに料理なんかしなかったよ。

鰻(ウナギ)のたれだって、醤油1升にみりん1升、砂糖も1キロ、これでいいんだって昔はおそわったのよ。そうすると、しょっぱいんだ。

練馬に来てからだいぶ研究した。鰻屋なんか随分食べて歩いて。だいたいこれぐらいな濃さにしようとか。ウナギなんかは、市場行けば間違いないからそこで食べたんですよ。

タレの味をみるでしょ、そうすると、醤油がどのぐらい、みりんがどのぐらい入ってる、それで調味料がどのぐらい入っている、舌でそれをみないとダメ。調味料自体の味もみながら。そういう微妙なことっていうのは、身体の調子が悪い時はできないです。味が変わっちゃう。

だからいい加減にやったんじゃダメなんだよ。やっぱりね。その人のものの考え方だよ。今は本当に美味しくしなきゃ、お客さん来なくなっちゃうからね。

健康の悩みにいい魚とお役立ちQ&A

健康はやっぱり直接口に入る食材から。体調が気になる方にいいお魚の話や、お魚に関する丸川水産的、一問一答をまとめてご紹介します。

健康が気になる人へ。目的別おすすめのお魚

(インタビュアー:川村さんはマラソンをされていますが、お肉で言うレバーみたいに、スタミナがつくお魚ってありますか?)

青魚かな、鯖(さば)とかそういうのだね。

うちのお客さんで貧血気味の方がいて、サプリよりも食品で摂った方がいいって話はするんですよ。赤貝とか、しじみもいいんですよね。赤貝って人間と同じでヘモグロビンが入ってて、開くと赤い血が出るんですよ。

男性にはご存知の通り、亜鉛が精力増強でいいって言うんで、牡蠣(カキ)はやっぱり半端じゃないんで、おすすめです。

知り合いの病院の栄養士さんで薬膳をやってる方がいて、ちょっと教えてもらったんですけど、女性にもカキは良くて、東洋医学的には身体を冷やさない食べものが良くて、妊娠しやすくなるって話でした。

その人が言うには、鰹(カツオ)も補血の効果があるそうで、貧血の方とか女性の方にはいいそうなんですよね。

あと有名なのはDHAってドコサヘキサエン酸ね、鰯(イワシ)とかサバとか青魚に入ってて脳にいいって言う。あとEPAね。血栓をできにくくするんで、動脈硬化とか脳梗塞の予防にいいって言われているそうです。

左上から時計回りに、ホウボウ、カキ、本マグロ、赤貝。

丸川水産的、お魚Q&A

(インタビュアー:砂抜きしてある浅蜊(アサリ)はもう何もしなくていいんですか?)

砂抜きしてあるやつを買ってきたら、ちょっと洗って、よく見て砂がなければ、そのまま使って大丈夫です。

(インタビュアー:焼き魚を上手に焼くコツはありますか?)

とにかく焼きすぎないことですね。なんとなくみんな心配で、焼きすぎちゃうんだけど、特に干物とかペラペラじゃないですか、生かな、ぐらいの感じで火を切るぐらいでちょうどいいですよ。焼きすぎちゃうと、やっぱり美味しくないですよね。

(インタビュアー:見つけたら買っておいたほうがいい、丸川水産さんでちょっと珍しい商品は?)

鮪(マグロ)のカマ焼きなんかもよく売れますよ。

(インタビュアー:お魚の味は、時期ももちろんあると思いますが、例えば獲れるエリアで味の濃さが変わったりするんでしょうか?)

それも多少はあると思うけど、育ち具合っていうか、時期によって痩せている魚じゃ美味しくないしね。魚によって、種類と大きさによって美味しさが違ってくるね。全体的に冬のほうが美味しいよね。 鰤(ブリ)とかね。

刺身、焼き物など、さまざまな商品が並ぶ店頭。丸川水産さんでは、種類を多くするように工夫しているそう。

丸川水産直伝、魚料理のコツ

私たちがあんまり知らないような、ちょっと珍しい食べ方や、丸川さんで買って帰って、おうちでも作れそうなレシピを伺ってみました。

シジミ

蜆(シジミ)なら、半分だけ入れて、よく煮るんですよ。そうすると身が小さくなっちゃうんですね。ようするに半分で出汁をとって、それをあげちゃって、あとの半分を入れて、さっと煮立てて火を止めちゃうの。そうすると、ふっくらした身が食べられる。

シジミは、洗って袋に入れて、一度凍らしちゃうんです。それで食べたいときに出して味噌汁を作る。解凍しないでそのまま直接作っていいです。アサリは身が固くなっちゃうから凍らしたらダメですね。

南蛮漬け

小アジのちいさいやつをおろさないでそのまんまカラっと揚げて、たまねぎとかいろんな野菜ではさんで、タレをかけて。漬け込んで置く。一晩ぐらい漬けておくと味がしみておいしい。

内臓は取ったほうがいいね、アジの場合はね、エラがあるでしょ、頭をつかんでヒレのところをぐっとひっぱるのよ。そうすると、内臓までさっぱり取れるよ。

包丁でハラワタ取るよりも、そうしたほうが、唐揚げにした時にカラっと揚がるの。カマのところに骨があるでしょ、これがなかなか揚がらないんですよ。

川村さんに図解をお願いしたらアジを描いて説明して下さいました。

蛸(タコ)のサラダ

あとはそうだね、タコね。頭も足も同じ味なんですよ。だけど頭って丸くてグロテスクでしょ。だから、うちでは頭の部分だけ分けて、安く売っているんですよ。

あれを、大きいままだと固いから、紙みたいにうすーく切って、サラダにするんですよ。

マリネ

豆アジよりちょっと大きい中小アジは、中途半端な大きさだから安いんです。それを三枚におろして、骨を取ってマリネを作ってね。

たまねぎとかきゅうりとか、色付けににんじんを使ったり。

たれを作るのが一番大変だけど、昆布とかつおぶしで出汁をとって、おすし屋さんで使っている酢を使うんです。

酢の物は酸っぱくてもツンとこないように、酢味噌は味噌だけど味噌臭さがなく、というように、調味料を作る。これが技術なんですね。口当たりのいい酢を使うといいんですよ。

今回ごく一部ではあるものの、お魚屋さん、鮮魚店さんのお仕事について、最初から最後までを一通り拝見すると、こんなにも沢山の仕事をされているのかと驚くことが沢山ありました。

築地市場で仕入れてきたばかりの魚や貝を次々に見せて頂くと、どれも見るからに本当に新鮮、色もきれいで、見ていると何だかワクワクしてしまいました。

その素材の良さを、お客様の台所や調理場までではなくて、いかに「口まで」運ぶか、美味しいと味わっていただけるかを、川村さんも渡部さんもこだわっていらっしゃるのが印象的でした。

お刺身や切り身など買って帰って食べると、臭みがなくて美味しいなと思って食べていた裏で、さまざまな工夫や大変な手間隙がかかっていたのを知って、味が良いのはやっぱり理由があるものなんだなと、しみじみ実感します。

たった1匹からでも、焼いたり煮たりもして下さり、本当に細やかに気遣って、美味しい海鮮類を届けて下さる丸川水産さん。プロの方も頼るお魚屋さんを「今日は何がありますか」ともっと覗いてみたくなりました。

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